「世界で史上もっとも影響力のある(有名な)写真は何か」

という海外サイトの記事があり、気になったので調べてみました。

というのも、現在の世界はSNSによって写真(画像)や映像(動画)が日常の中にあふれていて、僕たちは日ごろ数十枚いや数百枚かもしれないけど、とにかく膨大な量の写真を毎日のように見ている。このような状況は当然だが歴史上あったことがない。写真についてすこしは考えてみたくなるのも無理はない。

1840年前後に写真(カメラ)の発明があり、それ以来、写真というメディアは現在においても相変わらず僕たちに大きな興味を抱かせるのに十分な、魅力とインパクトをずっと保持している、ということがとりあえず言えるだろう。決して古びていないメディアなのである。

写真家でもない僕たち一般人へ写真、カメラが普及したのは、もちろんテクノロジーの進化(特にスマートフォン)による気軽さ、お手軽さだろう。これがなければ世の中にこんなに画像があふれるはずもない。気軽な写真の洪水のような世の中にあって、写真というものの意味は昔と比べてだいぶ違ったものへと変質しているのだろうなというのを感じる。

さて、今回の本題、世界でもっとも有名な写真とは?

きっとそれはお気軽な写真ではないだろう。ジャーナリスティックな報道写真かアート写真かのいずれかだろうとは予想できる。

以下で紹介する写真たちはアメリカのニュース雑誌、

TIME誌が『100 photographs  The most influential of all time

というコレクションをサイトにアップしている100枚中から、だれかの主観で選ばれた10枚という内容。参考にした海外サイトの評論家でもない誰かのチョイスなのでもっとも有名なのはこの10枚だというのにはそれほど信憑性はありません。TIME誌の「史上最も影響力のある100枚の写真」ページはリンク先をどうぞ。

というわけでさっそく、著名な写真を見ていきながら「写真」というものの意味について思いを巡らせていきましょう。

 

『戦争の恐怖』撮影:フィン・コン・ウト(ニック・ウット)

1972年ベトナム戦争時、南ベトナム軍がチャンバンの町にナパーム弾を投下した。その時爆撃から逃れる子供たちを撮影したもの。撮影したのは当時AP通信サイゴン支社に在籍していたベトナム人のニック・ウット氏。翌年この写真はピューリッツァー賞を受賞した。

真ん中の9歳の裸の女の子(ファン・ティー・キムフック)は背中に重度のやけどを負ったが一命をとりとめた(その後17回の手術を受ける)。現在キムフックは反戦運動家として活躍している。

 

『ハゲワシと少女(餓えた子供とハゲタカ)』撮影:ケビン・カーター

1993年3月、南アフリカ朱子院の報道写真家ケビン・カーターはスーダン南部を訪れ、アヨド村近くの衰弱したスーダンの幼児を捕食しようと死を待つハゲタカの印象的な写真を撮った。

多くの賞賛をもってピューリッツァー賞を受賞したが、同人多くの批判にもさらされた。「どうして少女を助けなかったのか」と。報道と人命という、メディアの姿勢を問う論争を巻き起こした。ケビン・カーターはピューリッツァー賞受賞後の1か月後に自殺した。

 

『摩天楼の上でランチ』撮影:チャールズ・C・エベッツ

1932年、ロックフェラーセンターの中のRCAビル(現GEビルディング)建設中、69階の横桁に座ってランチをとる労働者を撮影した写真。当時4人に1人が失業したといわれる大恐慌時代に、安全ベルトもしない環境であっても、職があることに喜びを感じている、という場面をよくとらえている。アメリカにおいて最も人気の高い写真の一つだ。

70年間、撮影者が判明しなかったが現在はチャールズ・C・エベッツ氏ということになっている。また労働者たちの特定はさらに困難で、これまで多く人たちが自分だと主張してきた。大半がアイルランド移民であることは確かなようだ。大恐慌時代であってもアメリカには職を求めて多くのアイルランド移民がわたってきていたのだろう。

 

 

アラン・クルディくんの写真 撮影:NilüferDemir

2014年シリアに暮らすクルド人、アブドラ・クルディさんの家族(他、妻と子供二人)がシリア内戦を逃れ亡命するためボートで脱出したが、転覆しアブドラさん以外の家族は助からなかった。写真は3歳の息子、アラン君がトルコの浜に打ち上げられているところが撮影されたもの。

2011年から十年を超え今に続くシリア内戦は未だに終わりが見えないが、2014年当時この写真が世界を駆け巡ったことで、一気に世界中の一般の人々にも関心が高まったことは、報道写真の強い力を感じる出来事だった。

 

『月面を歩くバズ・オルドリン宇宙飛行士』撮影:ニール・アームストロング船長

1969年7月21日、人類が初めて月面へ降り立った。この写真は先に降りたアームストロング船長が次にお降りたオルドリンを撮影したものなので、史上二人目の写真である。

月面着陸の様子を伝えるリアルタイムのラジオ放送を4億5000万人が聞いていたという。「いま着陸船の脚の上に立っている。脚は月面に1インチか2インチほど沈んでいるが、月の表面は近づいて見るとかなり…、かなりなめらかだ。ほとんど粉のように見える。月面ははっきりと見えている」

ラジオを聴きながらみんなが月の表面をイメージしたことだろう。そう、画像、映像はリアルタイムこの時点はないのだから。後日この写真が公開されそれを目にしたとき、人々の興奮はふたたび再燃といったところだろうか。

 

ドイツ軍に降伏するワルシャワゲットーのユダヤ人 1943年 

ワルシャワ・ゲットー(ポーランドワルシャワに作られた最大規模のユダヤ人隔離地区)内でユダヤ人武装組織が先導する蜂起が勃発した。しかしドイツ人警察、ドイツ軍の苛烈な鎮圧作戦によりあえなく降伏を余儀なくされた。この写真の中央の少年をはじめユダヤ人たちの表情がとても印象的だ。

この蜂起の鎮圧後、ワルシャワゲットー住民が数千人、瓦礫の下に埋まった。5万6000人がドイツ軍の捕虜として連れて行かれた。捕虜となった者のうち7,000人が射殺され、7,000人がトレブリンカ強制収容所に送られ、15,000人がルブリン強制収容所に運ばれ、残りは強制労働収容所へと送られた。

 

『移民の母(出稼ぎ労働者の母)』1936年 撮影:ドロシア・ラング

1929年暗黒の木曜日から始まった世界大恐慌。今に至るまで資本主義経済のぜい弱さを最も強烈に示した時代である。その世界大恐慌のもっとも有名なアイコンがこの写真である。農業安定局の調査で農村の写真、情報を集めていた写真家のドロシア・ラングが道端でキャンプしていた女性に引き付けられて撮影した写真の中の一枚。

被写体は40年以上たってローレンス・オーウェン・トンプソンというチェロキーインディアンの血を引く人物であることが判明した。当時年齢は32歳で7人の子供の母親だった。仕事を求めて夫と旅をしていたが、車が故障してしまい夫が部品を探しに行っている間、キャンプを設営して佇んでいた時の写真である。

世界中から夢を求めて人が渡ってくる多国の追随をゆるさなかった超大国アメリカも恐慌の前では、貧困の嵐に見舞われる。3人の子供たちを抱きかかえた女性の表情が非常に印象的だ。

 

『ヒンデンブルク号爆発事故』1937年 撮影:サム・シェア

タイタニック号の沈没と並ぶ大事故をとらえた写真。36名が死亡している。20世紀初頭にドイツのフェルディナント・フォン・ツェッペリンが開発した硬式飛行船はそれまでの軟式飛行船に比べて大型化でき135kmの高速度で飛行することができるようになり、世界1周のデモンストレーションの際には各国で熱烈な歓迎を受けた。日本にも茨城県の霞ケ浦に寄港している。

当時の客船が大西洋を横断するのに1週間ほど要したのに対しヒンデンブルク号は2日であった。50名ほどの乗客でかなり高額な運賃にもかかわらず大変な人気を博していたのだが、この事故で飛行船時代は幕を閉じることになる。

 

連作『アンタイトルド・フィルム・スティル』中の1枚 (1977〜80)シンディ・シャーマン

アメリカのセルフ・ポートレイトの代表的なアーティスト、シンディ・シャーマンは「元祖・自撮りの女王」ともいわれている。アンタイトルド・フィルム・スチルはハリウッドのB級映画やフィルム・ノワールのヒロインやファッションや広告においてメディアがつくり上げた女性のイメージに扮して、自身を撮影したモノクロ写真シリーズである。現代風に言えば「コスプレ自撮り」の先駆者である。

見られる側にある弱者という構図を取り、ジェンダーの虚構性や性の問題について提起する作品だと評価されている。現在にまで続く女性の性搾取の問題をいち早く取り入れていたといえる。

 

連作『カウボーイズ』中の1枚[『無題(カウボーイ)』 リチャード・プリンス 1980年~1992年

アメリカの画家兼写真家のリチャード・プリンスの作品。アメリカたばこの象徴「マルボロ」の広告によく使われ、これまたアメリカ男性の象徴である「カウボーイ」の広告写真を再撮影トレースしたもの。

もはや実在しないカウボーイをアメリカの男性の象徴としてイメージした広告をまた撮影するといった、何重にもメタ視点な作品。カウボーイのコピーのコピーのコピー、シュミラークルやシュミレーショニズムといわれるポストモダンな感性である。もはやオリジナルや本質というものは存在せず、コピーのコピーが再生産されていく時代においてアイデンティティとはどう構成されていくのだろう。

リチャードプリンスは現在もインスタグラムからの流用画像をつかって作品をつくっており、著作権問題において議論を巻き起こしている。日本でいうカオスラウンジ問題ですね。

シンディ・シャーマンによる問題提起の男性バージョンといったところか。

 

 

以上、史上最も影響力のある写真(TIME誌)の中から10枚をピックアップしてみました。

SNS社会でも猛烈な威力を見せ続ける”写真”(あるいは画像)といったものの本質とはなんであるのか、考えてみるいい機会になりました。人は容易にイメージに動かされる。イメージが喚起させる力は非常に強い。とにかくそのことだけでも常に頭の片隅に入れておきたいですね。

◆参考記事

ttps://www.wonderslist.com/most-influential-photos-of-all-time/